「いじめ」の再定義: 進化教育学から見た「いじめ」—— 減らないのも急に増えるのも定義が不完全だからだ

2020年2月8日

 

当サイト『Edint(教育のヒント)』では、進化論を教育に適用し、ヒトに合った自然な教育を考える「進化教育学」を提唱していましてね。

過去の記事は以下のページからご覧ください↓

 

で、今回は「いじめ」を進化教育学的に考察していこうと思います。

当然、教育学では「いじめ」は主要な研究テーマでして、何千もの文献が存在しているものの、なかなか解決に至らない問題です。

 

なぜなのでしょうか。それは、生物学的ロジックを無視しているからです。

 

いじめの定義は不完全

 

「いじめ」を減らすにも、まず定義を定めない事には話が進みません(アカデミック脳な人はすぐ定義の話からはじめる)。

現在、文科省が設定しているいじめの定義はこちら↓

 

「いじめ」とは、「児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校に在籍してい る等当該児童生徒と一定の人的関係のある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものも含む。)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの。」とする。なお、起こった場所は学校の内外を問わない。

 

「確かにそうかもなー」と思える定義なのですが、割とツッコミどころ満載でしてね。

一番の問題は、「これでいじめとそうでない行為を区別できるのか?」ってところ。

 

文科省の定義によれば、心理的又は身体的に苦痛を感じたら「いじめ」となってしまいます。

それで言うなら、喧嘩も遊びもいじめに該当してしまう可能性があるんすよね。なんなら、防衛もいじめに含む事だってできてしまいます。

 

定義とは、概念を明確に限定するものですから、本来ならば容易に区別可能性になるはず。

しかし、文科省のいじめの定義ではグレーゾーンだらけ。

 

なので、いじめの認知件数が以上に増えたりとかするんです(主に大きなニュースがあった翌年)。

それだけが原因ではありませんが、いじめの定義が定義と言う割になにも限定していないって事実は変わらないでしょう。

追記:文科省にはあえて定義を広く捉え、対策をこうじていく意図があります。今回の記事では、定義に加害者が生まれてしまうファクターを組み込み、予防策を強化するのが狙いです。

 

 

そこで、当サイト『Edint(教育のヒント)』は進化論の知見を適用し、「いじめ」の再定義を図ります。

 

いじめは適応的か?

 

進化の観点からいじめを論じるには、「いじめには適応的な意味(生存と生殖に有利に働いた)があった」と示していかねばなりません。

 

自然選択(淘汰)によれば、適応的な性質が遺伝子に刻み込まれ、次の世代に伝達されます(適応的な性質以外も伝達されますが)。

よって、遺伝するのであれば、適応的な意味があったと考えるのが自然です。

 

で、「いじめ」はどうなのかと言うと、遺伝の影響を受けます。

例えば、10歳の双子1116組を対象にした研究(1)では、

 

  • いじめっ子になるかは61%遺伝で説明がつく!

 

なんて結果が出ていましてね。全てではないものの、いじめ気質は遺伝で受け継がれていくみたいなんですよ。

 

なら、「いじめ」はなんの役に立っていたのか?って話ですが。

簡潔に言えば、社会的優位性の獲得(カーストのトップに上り詰める事)に繋がります(2)。

 

それだけではなく、「いじめっ子は性体験の時期が早い」との指摘もあり(3)、サピエンスの二大目標「生存と生殖」を叶える有効な手立てだったと言えるでしょう。

 

被害者からしたらたまったものではないでしょうが、進化上適応的な行為である事は間違いないですね……(しかし、ヒトはモラルを有した生き物ですから、「いじめてもよい」とはならないし、日本はいじめを推奨する文化ではないので「善い」と言うべきではない)

 

よって、「いじめ」は生物学的観点から語る必要がありますし、長年教育界が見逃してきた側面があるはず。

次からは進化論を適用し、「いじめ」の再定義を図ります。

 

進化論を取り入れ、「いじめ」を再定義する

 

そこで取り上げたいのが、進化の知見から「いじめ」の再定義を図った2014年の論文(4)。

 

この論文では、いじめを3つの要素によって構成されているものだと主張しています。

  1. 目的指向
  2. パワーバランスの不均衡
  3. 有害性

 

一つ一つ詳しく解説していきますね。

 

目的指向

なんらかの意図があって他者に被害を加えるのが「いじめ」の特徴(④)。これには概ね同意していただけるかと思います。

 

一般的な教育学ならここで考察が終わってしまうのですが、進化教育学は「なぜヒトは目的をもって他者を攻撃するのか?」まで踏み込んで考える学問領域。

 

なぜヒトは意図して攻撃的な行動をしてしまうのでしょうか。2012年の研究(5)によれば、以下の3つを獲得するのが目的だそうです。

 

  • 評判
  • 資源
  • 配偶者

 

狩猟採取社会では、「いじめ」が自分の強さ(地位の高さ)を他者に示す行為でした。

現代社会で言うと、「学歴」・「年収」・「SNSのフォロワー数」のアピールで自分の評判を上げておけば、幾ばくかの恩恵を得られますし。

評判を上げておけば何かと役に立つのは言うまでもないでしょう。

 

次に、自分の優位性を示すほど、得られる資源(昔なら食べ物)が多くなります(6)。

狩猟採取社会と現代とで異なる点は、食べ物だけが得られるリソース(資源)ではなくなった、ってところでしょうか。

部活動ならレギュラーのポジションがリソースですし、学校内なら友達のポジション、テストの順位もリソースと言えます。

 

最後に「配偶者の獲得」がいじめの目的として挙げられます。

先程でも述べましたが、いじめっ子ほど性体験の時期が早い事が判明しており(2)、いじめがパートナー(配偶者の獲得)に有利に働いていると考えられます。

いじめと性体験の早さに関しては、相関関係を示したものに過ぎないんですけど、関係はありそうなんですよね。

 

ヒトは太古の昔から、遺伝子を残すよう動機付けられており、その目標を果たすために「いじめ」を活用していました。

いじめの形が変われど、本質は変わりません。

 

いじめには「目標追求」が含まれているのです。

 

パワーバランスの不均衡

 

我々が一対一の喧嘩を「いじめ」とみなさないのも、対等な小競り合いだとみなしているからでしょう。

ここに一人加わって二対一になれば、均衡は崩れ、一方が不利になってしまいます。そうすると、「いじめだ!」と考える人が増えてるはず。

 

ここでのポイントは、パワーバランスと表記しているところで、権力を使った一対一の関係にも適応できるという点です。

社長と部下の関係でも、部下にクビや減給をチラつかせれば、それは立派ないじめ。

 

よって、2つ目の要素はパワーバランスの不均衡です

 

有害性

 

側から見ていると「いじめ」に思えても、「いじめ」にならないケースが存在します。

 

分かりやすいところで言えば、お笑い番組がその一つ。

しばしば芸人さんは他の芸人さんに身体的な苦痛を与えたり(Ex:ツッコミや罰ゲーム)、心理的な苦痛を与えています(Ex:暴露話)が、それが「笑い」や「次の仕事」に繋がり、むしろ利益となっています。

芸人さん達にとって、バラエティ番組で行われるイジリをいじめと言われてしまう方が有害なはずです。

 

要は、被害者がどう感じているのか次第なんです。ここは文科省の定義と合致しています。

 

よって最後の要素は被害者にとって有害かどうか、です(当事者が無理している場合もあるので注意深く観察する必要がある)。

 

まとめ?

①現在文科省が設定している「いじめ」の定義には生物学的知見が欠けているので不十分。これでは、いつまで経ってもいじめを区別できないし、減らせない。

②いじめを進化の観点から捉え直すと、

  • 目的指向
  • パワーバランスの不均衡
  • 有害性

の3要素が浮かび上がってくる。

③進化の知見を取り入れたいじめの定義とは、

“何らかの目的を達成する為に、明らかに不利と思える数又は力を用いて、当該児童生徒に心理的・身体的な有害性をもたらすもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わない。”

 

 

文科省の定義より判別しやすくなったのではないでしょうか。

最後に少し今回の話を整理しておくと、

 

目的指向はいじめる事で得られるであろう「評判・資源・異性からのモテ」を考えればよくて。

パワーバランスの不均衡は数や上下関係で判断すればいいでしょう。

有害性は、隠したがる場合もあるので傾聴して本音を引き出していくのがいいと思います。

 

今回紹介した知見は「いじめ」を見分けるポイントにはなるはずです。定義が明確になれば自ずと対策も見えてくるのではないかと

 

次回はもう少し踏み込んでいじめの究極要因(なぜ)を明らかにしていくつもりですのでー。

 

 


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当ブログの運営者:エイジ

年間3600本以上の学術論文に目を通す20代男性の教育関係者。エビデンスのある教育を広めるべく、ブログ・ Twitterなどで最新の教育情報を発信中。 Twitterをフォローして頂けると幸いです。下のアイコンからTwitterのページに飛べます。


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