自己欺瞞:なぜ無自覚に自分自身を騙し続けるのか?

2020年3月27日

当サイト『Edint(教育のヒント)』は、進化論を教育に適用してヒトにとって自然な学びを考察している。

 

 

当然、勉強だけが教育ではないのでヒトの発達や心理にまで言及しており、今回は“自己欺瞞”について触れていきたいと思う。

 

“自己欺瞞”は決して耳馴染みの良い話ではないだろうが、ヒト理解に欠かせない視点であるのは間違いない。そこに進化的説明を加えるとより一層理解が深まるのだ。

 

“自己欺瞞”:なぜ自分自身を騙し続けるのか?

 

進化生物学者のロバート・トリバースは、著書『利己的な遺伝子』で自己欺瞞の進化を指摘した。

 

たとえば、もし噓というものが、(ドーキンスが言うように)動物のコミュニケーションに基本的に備わったものであれば、必ずや噓を見抜く方向への強い淘汰が働くに違いないし、またこのことが、噓をついていることの自覚からくる微妙なサインによってそれを洩らしてしまわないよう、事実や動機を意識しないようにさせるある程度の自己欺瞞をよしとする方向への淘汰を生むのだろう。

 

また、『The Folly of Fools』では、自己欺瞞に焦点を当てて議論の展開を試みている。

 

自己欺瞞の進化原理はこうである、

  1. 欲求に忠実な個体は生き延びられなかった
  2. しかし、欲求を抑えすぎても生き延びらない
  3. よって、本心を悟られず欲求を満たす必要性に駆られた
  4. 自分自身を騙しながら目標達成を試みるようになった
  5. 嘘は認知的に負荷がかかる(1)ので、自然と無意識に本性を隠せるように進化した

 

嘘をついてみればわかるが、辻褄を合わせるのに苦労すだろう。常に頭を働かせておかなければならず、気を抜くとすぐに破綻する。

認知的および社会的コストの割に、バレたときのリスクは大きい ーー ワイドショーやSNSを見ていれば一目瞭然だ。

 

ならば、嘘を真実として扱った方が適応的と言えるだろう。それに、意図していたかどうかは大きな問題である。法律では意図的犯罪か過失かでペナルティが変わってくるし、裏切られたとしても意図していなければ謝罪が受け入れられやすい(2)。

 

本心を隠す戦略としても、嘘がバレた時の報復を避けるにしても、自分自身を欺き続ける行為はリスクヘッジとして有効と言える。

 

自己欺瞞の適応的意味

 

進化心理学者のダグラス・ケンリックらが作成した生物学的視点を取り入れた信頼性の高い欲求ピラミッドによれば、ヒトは地位を求める欲求を備えている(3)。

地位は資源の獲得(食べ物や異性)に繋がり、生物の二大目標「生存と生殖」に大きく貢献する。ブランド品を身につけるのも、SNSでフォロワーを集めようとするのも、有名人の知り合いだと自慢するのも、全てプレスティージ戦略(地位を高める行為)の一環だ。

そして、自己欺瞞もプレスティージ戦略を成功させる要を担っていると考えられる。

 

多くの研究で指摘されている事だが、大多数の人達は自分が平均以上の能力を有していると錯覚している(4)。算数の授業を始めるまでもなく、直感的にそんな事はあり得ない話だとわかるだろう。

これはダニング=クルーガー効果(5)と呼ばれ、専門家でも無知の知は難しいようだ(6)。

 

専門家ですら正確に自分の能力を把握できないのなら、これは普遍的に備わっている脳の癖で、何らかの適応的意味があるのではないだろうか。

実は、前述したプレスティージ戦略と絡めると筋が通る。プレスティージにとって重要なのは能力の高さではなく、 ーー もちろん、高いに越した事はないが ーー いかに能力が高いように見せるか、だ。

 

ブランド品は経済力のシグナルで、学歴は知性と将来の可能性のシグナル、フォロワーの多さは能力のシグナル、有名人の名刺は人脈のシグナルとなろう。

だからこそ、ブランド品をレンタルして合コンに向かう人もいれば、学歴を詐称してしまう人もいるし、フォローを買ったり・フォローバックで見せかけの数を増やすアカウントがあって、一度しか会ったことのない有名人とのツーショットをわざわざ見せて回る人がいても不思議ではない。

 

生存と生殖に成功したのは能力があるようにアピールできた個体であり、自分には能力があると信じ続ける(自己欺瞞)事なのだ。例え嘘でも、行動が促され成功率が高まるのなら、自己欺瞞が採用され続けていくだろう。

 

自己欺瞞は恣意的な理論に思えるが、自己実現の記事に目を通していただけると、暴論とは言えなくなるはずだ。

 

 

陰謀論を信じたくなるワケ

 

能力を過信してしまうのも、それなりに上手くいっているからである。ならば、発想を変えてヒトから能力を取り上げてみよう。

 

実験参加者のコントロール感を奪った2008年の研究(7)では、「上手くいかない事が増えると陰謀論を支持するようになる」との結果が得られた。

また、否定的な子ども時代を経験した人達は、不安型の愛着スタイル(自信がない・信じた人に依存する)を形成し、陰謀論を信じる可能性が高かった(8)。

 

神を信じて自然現象のランダム性に折り合いをつけていた太古の昔のように、ヒトはコントロールできない状況に遭遇すと、超次元的な何かを信じてしまうらしい。

 

注目すべきなのは、最初から陰謀論を信じていた訳では無い、という点だ(7)。

  1. コントロールできない
  2. 陰謀論をでっち上げる
  3. 真実かのように思い込む

 

これは認知的不協和(9)と一致している ーー つまらない仕事も毎日やっていると「この仕事は楽しいからやっているのだ」と思うようになる思考の癖。行動と思考の矛盾を解消する脳の戦略。

 

ヒトは他の生物と比べると、周囲の環境にある資源を改変し、利用すること、またそれらの資源を生存と生殖に結びつけることに関して卓越した能力を発揮するいう点において特殊な生物である。

私は何度も「生物の目標は生存と生殖である」と主張しているが、「生存と生殖を可能にする資源のコントロール権を巡って進化してきた」とも言い換え可能だ。

 

陰謀論の妥当性を考えるよりも、コントロール不可能なものには何らかの理由をでっち上げて信じ込み、歩き出した方が生産的だったのだのかもしれない。

 

自己欺瞞は“悪”か?

 

“自己欺瞞”になんらかの適応的機能があるとするならば、隠されたヒトの本心を探るのに使える。

 

特に社会では、美味しい話を持ちかけてお金をせしめようとしてくる輩もいるし、「教育を変えたい」との高貴な目標を掲げて活動している人もいる。

誰を信じるべきかを判断するのは至難の業である。

 

教育で言えば、「変えたい」という割には結局自分が有名になりたいだけで子どもの事など考えていない人もごく一部存在するのだ。

彼らにとって重要なのは“”の実践が広まる事であり、“”のユートピアに変わる事であり、指導法の効果は関係ない。成果が出ないのは“”のように上手く実践しなかったからだ ーー 高額情報商売の手法……。

 

誰しもプレスティージ(地位)を求める欲求は持っているし、それ自体は悪い事でもない。プレスティージを原動力にして成功を収める事もあるだろう。

問題なのは、表のメッセージと真の目的とが乖離しているところにある。

 

私は、「教育を良くしたい方々の為に記事を書いている」と心から口にしているが、突き詰めると記事を公開して得られるフィードバックで少しでも賢くなりたい利己的な意図が隠されているのかもしれない。そして、そう願うのも、私の住む世界は賢さが重要な要素で、不勉強だと馬鹿にされるからだろう。

 

隠された利己心に目を向けると後ろめたく感じてしまうが、結局のところ生物の目標は自分(遺伝子を共有している親類)の存続なのだから、利己心の払拭に期待しても意味がない。

それでもなお、利他心が社会を支え続けているのはモラルという別の心理的機能を身につけたからに他ならないのだ。

このトピックについては別途記事を設けるが、モラルも進化の過程で身につけた能力である。

 

私は、利己的な動機であっても、利他的な行動を取り続けている限り信用して構わないと思っている(一番は成果物で判断することだ)。

 

最後に、“自己欺瞞”を暴くテクニックをご紹介してこの段落を締めたい。

2017年に発表された論文(10)では、認知能力と陰謀論の信じやすさを調査してくれている。結果だけ抜き出すと、

 

  • 認知能力の高さは陰謀論の信じやすさと関係なかった
  • 陰謀論に騙されない人の特徴は分析的思考力を有しているかどうか

 

要するに、根拠を用いて論理的に考える癖のある人は陰謀論に騙され難いという事だ。

私のように頭の回転が遅い人でも、事実を積み上げて筋の通った論理展開を心がけていれば、自分と他人の嘘を見抜けるようになるかもしれない。

まとめ

①ヒトは自分の欲求を隠す“自己欺瞞”を備えた可能性がある。基本的に、自覚されない。

 

②自信過剰も“自己欺瞞”の一種である。過信しているからこそ、積極的な行動が促される面もあるが、実態が伴ってないケースも多々ある。一定の成果が得られ続けている限り、自己欺瞞は直らない。

 

③コントロール感が失われると陰謀論や超自然的なものを信じたくなり、理不尽なことが続くと論理的思考力が鈍る。自立した学習者を育てるには、一定の余裕が重要になってくるだろう。

 

時に、「教育の本質とは何だろうか」と考えることがある。一見無意味に思える校則や、伝統にどんな存在価値があるのだろうか、と。

 

こと教育で言えば、主役は子ども達であり、彼らの能力が最大化し、心身共に健康に育つのが第一の目標で、これに異論を唱える方はいないと思われる。

 

教育を少しでも良くしたいのであれば、教育の“自己欺瞞”を暴いていく事も必要になってくるはずだ。

探偵ゴッコは気持ちがいいし、SNSに投稿すれば手っ取り早く称賛を得られるだろう(よくぞ言ってくれた!「いいね」ポチッ)。だからと言って、面と向かって指摘しても基本的に変わらない。

 

そもそもなぜ自己欺瞞をしなくてはならいのかを思い出して欲しい。

 

隠す側はバレたくないから隠しているのであって、バラせば「怒り」をはじめとする防衛的感情が起動し、反発を生む。

自己欺瞞を暴いたところで世界が変わると思ってはいけない。別の選択肢を提示し、徐々にパイを広げていくのだ。

タバコの悪影響を示したエビデンスをいくつ並べたとしても、タバコの販売停止にはつながらないように、正論を通すには常にコンテクスト(文脈・実情)に合わせた状態で提示する配慮が求められる。

上記の図は、意思決定とエビデンスと文脈の関係性を表したものだ(11)。これは医療業界の研究であるが、どの分野にも通用する話である。

右上が理想的だが、教育の現状は縦の文脈軸が高く横のエビデンス軸が低い左上に位置していると言えるだろう。

 

コンテクスト、つまり空気を無視して駄々をこねていている内は単なる愚か者なのだ。可能な限り空気を読み、徐々に右側にシフトさせていく辛抱強い態度を備えた者が業界を良くしていく人材なのではないだろうか。

 

だから私は「教育を変えたい」などと絶対に口にしないし、代案なき批判は極力しないようにしている。

 

その一つが進化教育学であり、読者の方々からフィードバックを求めて理論と実践の融合を目指している。興味を持ってくださった方には価値のある記事を提供し続けたいと思っているし、批判を真摯に受け止め、過信しないよう努めていく次第である。

 

おそらく、この程度の地道な活動でしか教育を前に進める事はできないだろう。

残酷だが、残酷な真実から始めていくしかない。

 

 

参考文献

1.Veer, Anna & Stel, Mariëlle & Van Beest, Ilja. (2013). Limited Capacity to Lie: Cognitive Load Interferes with Being Dishonest.. SSRN Electronic Journal. 9.

 

2.Schweitzer, M. E., Hershey, J., & Bradlow, E. (2006). Promises and lies: Restoring violated trust. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 101,1–19

 

3.Douglas T. Kenrick, Vladas Griskevicius, Steven L. Neuberg and Mark Schaller(2010). Renovating the Pyramid of Needs: Contemporary Extensions Built Upon Ancient Foundations. Perspectives on Psychological Science. Vol 5, Issue 3, 2010.

 

4.Mahmood, K. (2016). Do People Overestimate Their Information Literacy Skills? A Systematic Review of Empirical Evidence on the Dunning-Kruger Effect. Communications in Information Literacy, 10 (2), 199-213.

 

5.Kruger, J., & Dunning, D. (1999). Unskilled and unaware of it: How difficulties in recognizing one’s own incompetence lead to inflated self-assessments. Journal of Personality and Social Psychology, 77(6), 1121–1134.

 

6.Atir, Stav & Rosenzweig, Emily & Dunning, David. (2015). When Knowledge Knows No Bounds. Psychological science. 26.

 

7.Whitson, J.A., & Galinsky, A.D. (2008). Lacking control increases illusory pattern perception. Science, 322 5898, 115-7.

 

8.Green, Ricky & Douglas, Karen. (2017). Anxious attachment and belief in conspiracy theories. Personality and Individual Differences. 125.

 

9.Festinger, L., & Carlsmith, J. M. (1959). Cognitive consequence of forced compliance. Journal of Abnormal and Social Psychology, 58, 203–211.

 

10.Ståhl, Tomas & van Prooijen, Jan Willem. (2018). Epistemic rationality: Skepticism toward unfounded beliefs requires sufficient cognitive ability and motivation to be rational. Personality and Individual Differences. 122. 155-163.

 

11.Dobrow, M.J., Goel, V., & Upshur, R.E. (2004). Evidence-based health policy: context and utilisation. Social science & medicine, 58 1, 207-17 .

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年間3600本以上の学術論文に目を通す20代男性の教育関係者。エビデンスのある教育を広めるべく、ブログ・ Twitterなどで最新の教育情報を発信中。 Twitterをフォローして頂けると幸いです。下のアイコンからTwitterのページに飛べます。


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